三日月(@trickwolves)です。
昨日NHKラジオ第一放送にて、「畜産と動物福祉 あり方が問い直されている」という非常に興味深い内容の放送がありました。
今回の記事では、動物福祉について考えていきたいと思います。
日本は動物福祉の後進国だと思う
残念なことに、日本は動物に関する法が全く整っていません。こと動物福祉に関しては、後進国といっても差し支えないレベルでしょう。
海外(ヨーロッパやアメリカの一部)を見てみると、ペットに関しては動物虐待に関する相談や通報ができて、虐待されている動物を保護する権利を持ったアニマルポリスと呼ばれる団体があります。
そして畜産動物に関しても採卵鶏(食用の卵をとるためのニワトリ)のケージ飼いが法律によって禁止になっていたり、ブタ1頭あたりに必要な最低床面積が決められていたりとさまざまな観点からアニマルウェルフェア制作が実施されています。
参考資料:EU における動物福祉(アニマルウェルフェア)政策の概要(農林水産省の報告書)
海の向こうの国々では、最終的にと殺される運命にある畜産動物に対してさえ動物福祉が声高く叫ばれているのです。そして消費者側も、それを当然のこととして受け取っているのです。
海外では、日本では想像もつかないほど「動物の権利」が考えられているのです。
スターバックスやマクドナルドなどのアメリカ系の大手チェーン店も、2020年までに使用する卵を全て平飼いのものにする…となんと2015年の地点で発表しています。
参考URL:
https://jp.reuters.com/article/starbucks-eggs-idJPKCN0RW08920151002
https://www.dailysunny.com/2015/10/05/nynews1005-17/
残念ながら、日本ではまだここまで考えられる環境が整っていません。
ですがせめて、死ぬまでそこで育てられる運命にある動物園動物に対する福祉だけでもなんとかしていきたい。少しずつでも良いから、動物を取り巻く環境を整えていきたいと強く思っています。
勤めていた動物園はこんな環境でした
正直なところ、私が以前勤めていた動物園では動物福祉もなにもない環境でした。
こんな動物園もあるんだということを知ってほしい、そしてそういったものを目にした際は願わくば声をあげて欲しい、と思い当時のことを振り返っていきます。
動物の寝室に冷暖房器具がない
ほとんどの動物の寝室には、冷暖房器具がありませんでした。
例外として極端に暑さや寒さに弱く、気温の変化が死につながる可能性がある動物だけは冷暖房が設置されていました。
しかしなんとか気温の変化に耐えられる動物については、そういった配慮が全くありませんでした。
エアコンがあった動物
レッサーパンダ
ヒーターがあった動物
リスザル、インコ・オウム類、カメ類、ハリネズミ、ミニブタ
エアコン・ヒーターがなかった動物
ウサギ、モルモット、マーラ、ニホンザル、プレーリードッグなど
ウサギやモルモットだって暑いものは暑いし、寒いものは寒いはず。
ですがスペースや予算の関係で、彼らは冷暖房を入れてもらうことができませんでした。彼らは1年を通して、たいして日光の当たらない部屋でじっと寒さにも暑さにも耐えていました。
2018年はあまりにも猛暑だったこともあり、サーキュレーターだけは購入してもらえました。しかし毛皮を持つ動物たちにとっては焼け石に水、あの暑さをサーキュレーターだけで乗り切ろうと考えるのは無謀の一言であったと思います。
2018年の暑さは異常といっても良いものでした。
人間ですら5~9月の間に92,710人が熱中症と思われる症状で搬送され、そのうち159人が亡くなっています。(参考URL:http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h30/10/301025_houdou_3.pdf)
人間も大変でしたが、動物にとってもあの暑さは辛いものだったでしょう。
夏の間に、数匹の動物が(恐らく)熱中症だと思われる症状で死にました。恐らくというのは、私がいた園では死因の調査をしないため、あくまで推測でしかないからです。(後の項目で書きます)
ちなみにこちらは動物福祉に注力している福岡県・大牟田市動物園のモルモット舎です。11月末に訪問したところ、既にヒーターが設置されていました。またワラやチモシー、落ち葉や木の枝やトンネルなど色々な素材が置かれモルモットが好きに移動できるように配慮されています。(モルモットが自分の意思で動ける環境に感動しました。)
本の名前は忘れてしまったのですが、動物園業界には数十年前に発行された飼育員の心得を書いたガイドブックがあります。
その中では”海外産の動物であっても冷暖房を使って甘やかすのではなく、日本の気候に慣らすべき”といったことが書かれていました。確かに日本で生活させる以上日本の気候に慣らした方が良いかもしれませんが、エアコンや暖房が全くないのは現代の動物福祉的に問題ではないのでしょうか。
その本はかなり古いものですが、今も使える知識がたくさん詰め込まれていました。その反面、現代の動物福祉にそぐわないことも少なくありませんでした。
正規職員の飼育員は定年まで勤めあげる方が多いため、今もこの考えを軸に置いている人が多いのかもしれません。少なくとも私の上司は完全に「古い考えを正しい」と思っている人でした。
専属の獣医がいない
小さな動物園でしたので、園の専属獣医さんがいませんでした。
診察・診療は近所の動物病院の獣医さんが数週間に1度巡回しに来るだけ。必要な薬はその時に持ってきてもらうか、自分たちで取りに行かなければなりませんでした。
以前も「命の価値は平等ではない」という記事を書きましたが、ウサギやモルモットなど単価が安い動物はほぼ積極的な治療をせず、経過観察をするのみでした。
私たち飼育員は急患が出ようが症状が悪化しようが、動物病院の定休日や獣医さんの都合がつかない時は動物を見守ることしかできませんでした。ヒーターをつけたり、タオルを引いてなるべく寒くないように痛くないようにしたり…そして見守ることしかできませんでした。
獣医さんはとても良く動物たちのことを考えてくれました。たくさんのことを教えてくれました。それでも、もしすぐに見てくれる専属の獣医さんがいたならあるいは助かったかもしれない。そんな命があったことは確かです。
動物の死因の調査を行わない
また私がいた園では動物が亡くなっても、死因の調査が一切行われませんでした。
大きい園では希少な動物が亡くなった際は解剖を行い、その死因を調べて他の動物たちの飼育に生かしていくものです。しかしそういったことは一切ありませんでした。
亡くなった動物はその日、あるいは冷凍庫に入れておいてまとめて園内に埋めていました。埋めることが難しい大きい動物については、焼却場に持って行って燃やしていました。平たくいえば、粗大ごみ扱いです。
動物が死んでしまうと、その肉体はすさまじいスピードで劣化し腐っていきます。生きている動物をすぐに診察してくれる獣医さんすらいない環境では、とても解剖や調査をしてもらうことなんてできませんでした。
衛生面について考えられていない
これは私がいた園だけではなく該当する動物園も多いと思うのですが、園内には踏み込み槽や消毒マットなどがほとんどありませんでした。
最近豚コレラが広がっているというニュースを良く耳にしますが、動物が関連する病気は大きく2つに分けられます。
①豚コレラのように豚やいのししなど特定の動物だけがかかる病気と、②狂犬病のように動物も人もおかまいなしにかかる病気(人獣共通感染症といいます)があり、人畜共通感染症も少なくありません。
私はもともと養豚に携わっていたため、防除防疫をすることは当然だと思っていました。しかし踏み込み槽や消毒マットを用意している動物園はほとんどないように見受けられます。後々は慣れてしまいましたが、就職当初はあまりにも消毒関係がないことに強い違和感を感じていました。
鳥インフルエンザを防ぐために、バードゲージ入り口にマットを用意している園は多いように思います。しかしブタやイノシシの近くに、こういったものが用意されている園を見たことがありません。
国内で豚コレラが騒がれている現状です、どの園もなるべく先手を打った方が良いのではないでしょうか。外国人の旅行客が増えているという観点から見ても、動物エリアに入る前に靴の裏くらいは消毒してもらった方が良いのではないでしょうか…?
動物園にいる動物たちを幸せにするためにできること
ここまで長々と私が勤めていた動物園の状況を書きましたが、実際のところ日本国内にこんな動物園が存在しています。恐らく地方の小さな動物園であれば、同じような状況のところも少なくないと思います。
それでは私たちは、どんな動物園にいる動物たちのために何ができるのでしょうか。
私たちができることは、動物園に対して「環境を改善して欲しい」としっかり言葉にして伝えることです。
動物園に遊びに言った時にこれはおかしいとぞ、思うことがあればぜひお客様の声や意見ボックスに意見を入れてください。(特に公立の施設であれば)市民県民の声は上層部が無視できない力を持っています。
ただし何も調べず考えず、ただ自分の感性だけで文句を言うのは残念ながらただのクレーマーです。
動物の生態をきちんと調べて、そのうえでその動物が飼育されている環境が動物にそぐわないものであると思ったらぜひ”なぜ・なにを・どのように改善すべきなのか”という建設的な意見を伝えてあげてください。
動物園に伝えてもリアクションがないようであれば、市や県に伝えるのも良いでしょう。それでもダメなら、SNSの力や動物愛護団体の力を借りるのも1つの手だと思います。
以上、元現場の人間からのお願いでした。