三日月(@trickwolves)です。
私は現在小さな動物園の飼育員ですが、臨時職員であり期間限定の飼育員です。そして数か月間内にこの仕事を辞すつもりです。
念願で夢だった仕事ですが、肉体的・精神的・金銭的な理由から本当の仕事にすることは出来ませんでした。なのでせめて本気で動物園の飼育員を目指す人(主に学生さん)へのアドバイスを残しておきます。
動物園の飼育員を目指す人がやっておくべきこととは?
この業界を知る方の多くはご存じかと思いますが、動物園関係で働きたい人は非常に多いにも関わらず、日本国内にある動物園の数はさして多くありません。
今後私設の動物関連施設(移動動物園や動物カフェなど)は増えていく可能性はあると思いますが、公立のものはかかる費用や必要な土地、需要などを考えるとそうそう新しい物が出来るとは考えづらいのが現状です。
つまり飼育員を志す方は少ない席(採用)を多くの人で争い奪い合い、勝ち残ったものだけがその席を得る…ということになってしまいます。
そんなある種血で血を洗う争いを勝ち抜くために、できることを1つずつ挙げていきます。
1.動物系の専門学校もしくは大学へ行く
まずは最初のステップとして、動物関連の学校へ行くこと。
高卒であっても受験資格がある園もありますが、募集要項が動物関連の学校卒でかつ大卒であること(専門学校も不可)という園も少なからず存在しています。
動物関連は専門学校から東京大学の獣医学部まで、多くの学校・学部があります。専門学校に行く方もどこかの大学へ行く方も、獣医学部卒の方と同じ土俵で戦うことになることを頭に入れておいてください。学力的にも、それだけの努力が必要です。
2.在学中に客としてなるべく多くの動物園に行く
学生であるうちに&時間があるうちに、お客さんとしてなるべく多くの園に行ってください。
もちろんただ遊びに行くだけでなく、動物や飼育舎の写真を撮ったりレポートを書いたりして、それぞれの園の良いところや悪いところ、展示方法を自分なりに観察・考察しましょう。
そして「どこがどのように良い/悪いと思ったのか」「良いところをさらに生かしていくためにはどうすればいいか」「悪いところを改善するためにはどうすればいいか」などの課題を挙げ、考えてみてください。
3.在学中に可能な限り動物園実習に行く
時間と権利があるうちに、なるべく多くの園で実習をさせて貰ってください。
時期にもよりますが、多くの園は学生を実習生として受け入れてくれます。中には個人での依頼を受けてくれる園もありますが、学生の場合多くは学校を経由して依頼することになると思います。
社会人になってから実際に確認はしていませんが、学生でなければ実習を受け入れてくれない園もあると思います。ですので学生であるうちに、学生という権利を持っているうちに時間とお金が許す限り多くの園に実習しに行き、そこで経験を得て、技術を学んで下さい。
4.動物園ボランティアとして活動する
大きな動物園を中心に、土日祝や夏休みなどお客さんが多い時に動物園ボランティアを募っている動物園があります。そういったところに積極的に応募して、そこでも可能な限り人脈を作ってください。
飼育員は知識や経験が大切なことはもちろんですが、ある種「人脈が物を言う世界」です。
5.なるべく関連する資格を取っておく
ドイツでは動物園の飼育員になるためには国家資格が必要だそうですが、現在の日本においては飼育員になるために必要な資格というものははありません(参考:世界をめぐる動物園・水族館コンサルタントの想定外な日々/田井 基文著・産業編集センター)。
動物の飼育に直接役立つ資格は多くありませんが、下記の資格をあらかじめ持っておくと何かの折に役立つはずです。
- 普通自動車免許(AT限定はNG、MTまで取っておく)
- 振動工具取扱作業者(http://cot.jpncat.com/know/?no=12)
- 刈払機取扱作業者(http://cot.jpncat.com/know/?no=9)
- 溶接技能者(http://www.jwes.or.jp/mt/shi_ki/wo/archives/00/)
- 潜水士(http://www.lejlc.co.jp/anzen/sensui-about.html) など
役立つ資格も何もまずは、普通自動車免許を取得しましょう。車が運転できないと本当の本当の本気で話になりません。また動物関係の現場は未だにマニュアル車を使っているところが多く、AT限定の免許では役に立たないことが多いという現状があります。
正直なところ動物関連の資格は獣医師を除き公的なものがほとんどなく、持っていても飼育員としてはそれほど役に立ちません。(強いて言えば「愛玩動物飼養管理士」などは持っていても損はありませんが…程度。)
であれば電動工具類が扱える方がよほど実務の役に立ちますし、動物園の飼育員になりたい&やる気があることがアピール出来ると思います。
それともともと水に住む生き物(アザラシやらホッキョクグマ、ペンギンなど)と携わりたい人には当然の話かと思いますが…動物園でもこれらの生き物の飼育に配属される可能性があるので、潜水士も持っていると役に立つかもしれません。
6.体力と筋力をつけておく
動物園の飼育員は文字通り、体力勝負です。
夏は照り付ける太陽の元で仕事をするので熱中症になりかけて死にそうになりますし、冬は氷点下でも雪でも仕事をするので風邪を引きそうになりますし、手はあかぎれたりひび割れたりでガッサガサになります。
動物のエサの袋や牧草のブロックは1個で大体20~30Kg、中には40kgのものもあります。大型動物の担当になればエサを管理するだけでも相当な体力を使いますし、それでなくとも対動物以外の作業(飼育舎の修繕改修、土の入れ替えなど)でも体力を要します。
ということで若くても細くても女性であってもなんでも、40Kgくらいのものは持ち運べるくらいの筋力&体力をつけておくことをおすすめします。現場では女性だからやれない、持てない、なんて話は通用しません。
7.なるべく人脈(知り合いや顔見知り)を作っておく
上でも書きましたが早い段階からなるべく多くの動物関連施設やイベントに行き、可能な限り人脈を作っておくことを強くすすめます。
動物園関連は体質的に古いところが多く、ぶっちゃけると縁故採用(いわゆるコネ)の影がちらつく世界です。その園で実習やアルバイトをしたことがあり、その際にやる気があるところを見せたり良い成績をおさめたりした人は、正規職員に昇格できる可能性が普通の人よりも少し高くなるみたいですよ。
具体的な名前は書けませんが、とある園ではその園で実習やアルバイトなどの経験がない人は最初の試験で落とす…という話を聞いたことがあります。なお実際の採用にどのくらいの影響を及ぼしているかはわかりませんが、私が受けたとある動物園ではエントリーシートに「当園もしくは関連園での実習経験の有無とその期間」を書く欄がありました。
8.アルバイトもしくは臨時職員として数年働く覚悟をする
恐らくどの園でも、新卒かつストレートで正規職員の飼育員になるのは非常に難しいと思います。
公務員の場合は公務員試験を受け、受かれば正規職員になれるのでこの限りではありません。しかし指定管理者制度や私立の園では、1発で正規職員になるというのはかなり困難な道だと思われます。
そういった園に勤めたいのなら学校卒業後にアルバイトか臨時職員としてそちらの園で勤務し、毎年正規職員の試験を受け続ける覚悟をしておいた方が良いと思います。
ただし臨時職員やアルバイトは非常に給料が安く、実家暮らしならばまだしも一人暮らしではかなりカツカツの生活になる可能性が高いです。副業でアルバイトをしたいと思うくらいのお給料かと思いますが、飼育員の仕事で相当な体力を持って行かれるので副業をすることも難しく、そもそも公的な施設の場合副業が許可されない可能性が高い…という現状もあります。
おわりに・飼育員になるには並々ならぬ努力と熱量が必要
ざっくりとまとめましたが、動物園の飼育員(正規職員)になるにはとてつもない努力と並々ならぬ熱量が必要です。
24時間常に動物のことを考えることが出来るくらいの深い熱量と愛情があり、多少(で済まないことも多い)の理不尽にも負けない強い気持ちや新年があり、常に勉強し続ける事を厭わない高い志を持った方にはぜひ頑張って正規職員の飼育員を目指してください。応援しています。
正直どれだけ「なりたい!」と切望しても努力しても、正規職員の飼育員になるのは非常に難しい、まさにいばらの道です。しかしその反面、実は臨時職員やアルバイトであれば、そして47都道府県どこにでも行く気概さえあれば、飼育員になること自体は難しくないという現状もあったりします。
まず非正規になって正規職員を夢見て、夢破れてこの業界を去っていく人はめちゃくちゃに多いのです。私自身もそうですし、同僚も同じ道をたどりました。非正規という不安定さ、給料の安さ、将来性のなさ…あらゆる理由から、多くの人が去っていっています。
何としても正規職員の飼育員になりたい人は「絶対に飼育員になるんだ」という強い思いを常に心のど真ん中に突き刺して、日々を頑張って下さい。気持ちが折れないうちはきっとまだ大丈夫、頑張って戦って戦って戦い抜いて下さい。
大学卒業後数年かけてさまざまな動物園の試験を受けては落ち、一度夢を諦めたもののアラサーになってから臨時職員としての飼育員になれたけれど、現実を見て夢の世界から足を洗う先輩からの心からのアドバイスと激励の気持ちを込めて。
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他にも飼育員関係の記事を多く書いています、良かったらこちらもどうぞ。