こんばんは、三日月(@trickwolves)です。
先日平川動物公園で飼育員の方がホワイトタイガーに殺されてしまう、という痛ましい事故がありました。
動物園職員、ホワイトタイガーに襲われ死亡 (読売新聞) – LINEアカウントメディア https://t.co/Lge4MLLDT9 #linenews @news_line_meより
— 三日月 (@trickwolves) 2018年10月11日
ひよっこ飼育員として、こういった事故が起こりうる動物園の現場についてお話ししてみます。
本来の猛獣舎は危険な場所ではない
私は現在地方にある、猛獣なんていない小さな小さな動物園の飼育員として働いています。危険な動物とされる、いわゆる特定動物もニホンザルしかいません。
今の職場に猛獣はいませんが、大学生の時に行った動物園実習ではトラ、ライオン、ゴリラなどの大型動物に携わっていました。そのため多少ですが、猛獣がいる動物舎の作りについては知見があります。
そう、実は本来猛獣が暮らす動物舎はきちんと手順が守られていれば、学生が実習に入ることができるほどに安全性が担保されている場所だったりします。
なぜなら人を殺せるほどの力を持つ危険な動物(以下猛獣)を飼育する動物舎は、正しい手順を踏めば飼育員と猛獣が「絶対に同じ空間に入らない」「絶対に接触しない」作りになっているからです。
猛獣と人は同じ空間に入れないつくりになっている
猛獣舎においては、まず外の放飼場(展示場)と寝室の間にいくつかの扉が設置されています。その扉は非常に重量のある金属製で、猛獣でも破壊できないくらいの頑丈なつくりになっています。
そして猛獣を寝室から放飼場に出す際は寝室の扉を開け、動物を移動させてから寝室の扉を閉め、その後放飼場の扉を開け、動物が移動したら放飼場の扉を閉めるという手順になっているはずです。放飼場から猛獣を寝室に戻す際は逆に展示場の扉を開け、動物が移動したことを確認したら放飼場の扉を閉め、寝室の扉を開け、動物が寝室に入ったことを確かめてから寝室の扉を閉めます。
この手順を守ったうえで動物の寝室、もしくは放飼場に入れば猛獣と飼育員が同じ空間に入ってしまうことは絶対にありません。
「トラと鉢合わせあり得ない」 猛獣飼育ベテランがなぜ(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース https://t.co/3B6SWxw6gj @YahooNewsTopics
— 三日月 (@trickwolves) 2018年10月10日
ちょっとしたことが命の危険に繋がるのが飼育員の仕事
今回の件は恐らく何かしらの手順を誤ってしまい、飼育員の方とホワイトタイガーと同じ空間に入ってしまったことが事故の原因と思われます。もしかしたらホワイトタイガーがいる場所を確認せず、ホワイトタイガーがいることを把握しないまま同じ空間に入ってしまったのかもしれません。
今回の事故で亡くなった方は、猛獣飼育のベテランの方だったそうです。とすればおそらく慣れとそれに伴う油断があったかもしれませんし、あるいは疲れや気が散るようなことがあったのかもしれません。もしかしたら就業後に大切な用事があって、早く仕事を終わらせなければならないと焦っていたのかもしれません。
本当にちょっとした操作であっても、1つ誤るとそれが死に直結してしまう。今回のニュースで飼育員の仕事は楽しくやりがいがあるものである反面、常に死と隣り合わせにあるものということを再認識しました。
私の勤め先である動物園には肉食の大型獣はいませんし、一番大きい動物は馬、かつ家畜のような”同じ空間に入ることが普通”の動物たちばかりです。そのため今回のような事故が起きる可能性は低いのものの、それでもやはり「動物は人を殺す可能性を持っている」ということを常に頭の片隅に置いておかなければならないな、と思いました。
初歩的なことだけど致命的になる動物舎の施錠ミス
飼育員として一番恥ずべきこと、それは動物を逃してしまうことです。
動物を逃がしてしまう原因となるのは獣舎の施錠ミス、獣舎の破損が主なものです。特に前者は人為的なミスであり、「防げるもの」そして「防がねばならないもの」です。
飼育員として勤めはじめると、「とにかく何が何でも施錠を確認すること」を口を酸っぱくして言われます。しかし人間というのは厄介なもので、どれだけ意識していても注意していても、時にうっかりをやらかしてしまうんですよね。
私自身も大学で動物を学びその後養豚業、動物園と勤めてきましたが、本当にたまにうっかり施錠を忘れてしまうことがありました。その忘れてしまった部分が2重扉の外側の鍵であったり、逃げ出すような力の強い動物の獣舎ではなかったたりして事なきを得ましたが…ともすれば動物を逃してしまうような事態になることもありえたと思います。
ちなみに?動物舎の鍵は、南京錠が使われている事がほとんどです。施錠した後は何度も目視で確認して何度も引っ張ってしまっていることを確認するのですが、それでもありうる「うっかり」がいつも本当に怖いです。
どれだけ注意していても、どれだけベテランでも人間である以上、うっかりは起こりえます。動物園でも一般企業のように、重要な部分は担当者以外の人が二重チェックする体制が必要だと強く思います。
おわりに
加害者であるとはいえ、飼育員の方を害してしまったホワイトタイガーがきちんと終身飼育されることを願っています。なぜなら飼育員をやっている人は文字通り、担当する動物を目に入れても痛くないくらい愛している人がほとんどだからです。
そしてこの痛ましい事故を教訓に事故の原因を突き止め、再発防止策に力を入れて頂けたらなと思います。今回の件も飼育員の方1人で作業をしていたそうなので、猛獣の場合は必ず2人体制にするなど具体的に対策を進めてもらいたいです。
今回の件は平川動物公園だけの問題ではありません。全国的にギリギリのスタッフでまわしている動物園も多いので、飼育員の待遇や働き方を改善して貰えたらいいな…と切実に思います。
トラはどこの動物園でもよく目にする動物ですが猛獣であり、非常に力が強く野生下でも飼育下でも動物を殺してその肉を食べて生きる動物です。遊んでいるつもりの猫パンチであってもヒトにとっては致命的な一撃になりえる…トラはそんな生き物であることを忘れてはならない、と痛感する事故でした。
最後になってしまいましたが、亡くなられた職員の方のご冥福をお祈りします。同時に今後このような事故が無くなるよう、切実に祈っています。